病気をテーマにしたフィクションはどうも苦手だったりする。
それは多分、仕事柄つい、そう思ってしまうだけなのだと思うのだけど…。
病気
『参っちゃうわ!ハイに移っちゃったのよ!!』
自動ドアを抜けた彼女は、ワタシの『こんにちは』の挨拶より早く、唐突に、そして早口に切り出した。
『ハイ…??』
突然のことに面食らって、ワタシは間の抜けた声で聞き返した。
『肺よ、肺。乳癌が肺に転移してたの!もう、ホント嫌になっちゃう!!』
声を潜めるどころか、滑舌はいつも以上に明瞭だった。待合室に患者は少なかったが、居合わせた人達には漏れなく聞こえたに違いない。
ワタシにとっては仕事上在り得る会話だが、居合わせた他の患者にとってはぎょっとするような内容ではないかと少し心配になる。ここは腫瘍外来ではないので。
『検査でわかったんですか?』
『そうなのよー!MRI撮る範囲を広げたの!そうしたら肺に転移してるって!』
書類にチラッと視線を落とし、彼女の名前を確認する。見覚えのある名前…。そうだ、彼女は乳がん治療剤をずっと服用している。
『そうですか…。でも、検査で早めにわかって良かったですね(検査に引っかかることなく進行したら、取り返しのつかないことになる…)。』
ワタシは極力落ち着いた声を出すよう心がけながら話した。
こういう時、どんな対応をするのが正しいのだろうか。
この仕事をして10年になる。しかし、未だに答えは見つからないままだ。
ワタシは彼女の家族ではないし、友人でもない。主治医でもなければ、看護師でもない。余計なことを言って、治療の妨げになるのは相当まずい。
一緒に興奮すればいいのか、同情して涙すればいいのか。
きっとどちらを選んでも、彼女はワタシに不信感を持つだろう。それだと【何者でもないワタシ】を選んで話した意味が無くなるからだ。
ワタシは静かに聞くだけ。頷いて、事実を受け入れるだけ。相槌を打ち、認めるだけ。
これが意外と大変だって、患者は知らないんだけどね。
『主人が(家内が)亡くなったよ…』
そんな報告も、年数回受ける。
『そうですか、大変でしたね…』
ひと月前に会った時は、笑っていたのに。笑顔で挨拶したのに。
僅かな間に、人の生命は失われてしまう。
興奮しない、動揺しない、同情しない…。
仕事中は、極力そう心がけている。正しいかどうかはわからない。それより最善の対応が見つからない。
ワタシはどうすれば良かったのか…。
日に日に痩せ細っていく人を、見たことがあるだろうか。癌の痛みに耐える人を、見たことがあるだろうか。自力で食事を取れず、胃に管を通して直接栄養剤を流し込んで生きている子供を実際に見たことがある??
病気は、決して感動的なものじゃない。
小説だのマンガだの、創作物が好きなワタシだけれど。病気をテーマにしたものだけは苦手なのだ。
現実を知りすぎていて、リアリティがありすぎて。フィクションとして受け入れられない。
医療現場がテーマのものは面白く見れるのだけど、病気(とその患者)に焦点を当てられるとちょっと逃げ腰になってしまう複雑な乙女心。あまり理解はしてもらえないかも知れないけれど…。
今日も無事、1日の勤務が終わって良かったです。明日は土曜日だけど、めでたくまた仕事だよ!
そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。
オヤスミナサイ☆|)彡サッ