金属アレルギーなOLの業務外報告

全てのストレスを受け流し、気ままにゆるく生きる意識低めなOLの雑記。

他人のものが欲しくなる、その瞬間。【今週のお題「恋バナ」】


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今週のお題「恋バナ」

たまには面白いかな、と。

 

出会い

初めて彼に出会った日のことを今でも覚えている。

初対面なのに失礼なことを言われた。

【店長、この子…キャバ嬢?】

バイト先の休憩室だった。

バイトは飲食店。しかしキャバクラではない。

ごく普通の飲食店だ。

【はぁ?】

私は露骨に嫌な顔をして、彼を睨み返した。

店長は楽しそうに笑っている。

その失礼な男は、普段は見ない顔だった。

けれど名札を見て、【大野】という彼の名前だけ知っていることに気がついた。

ランチタイムに入っている人だ。

私はいつもディナータイム。

昼間の従業員をあまり知らない。

人が足りない時は時々店長から声がかかる。

【ランチタイムも出れない?】

土日なら本当は出れなくはない。学校は休みだから。

だけど出ない。出たくない。

昼間を仕切ってる馴れ馴れしいパートのおばちゃん達も、

ランチライム特有の子連ればかりのウルサイ客層も。

とにかく全てが嫌いだった。

夜と同じ店とは思えない。

おばちゃん達を上手くあしらう店長も、見たくない。

ディナータイムは気楽だ。

年の近い、若い子ばかり。

22時までは女子高生もいたりする。

深夜になれば、厨房もフロアも年の近い大学生しかいない。

気心の知れた男友達ばかりで、忙しいながらも快適な空間だった。

【大野ね、社員になることになったから。これからはディナーも入るよ】

店長はいつも通り私に向かって笑いかける。とても自然に。不自然なほど。

【あっそう】

私は短く答えた。とても不自然に。

なんだか不快だった。

いつものように店長の顔が見れない。笑顔が作れない。

この失礼な大野という男に、隠しているものを見透かされそうで。

私が視線を合わせないのをいいことに、ジッと観察されている。

興味本位がわかりやすいけど、私は気付かないふりをした。

これからこの男がディナータイムの空間に入ってくると思うと憂鬱だった。

 

仕事

夜チームの中で、大野は異質な存在だった。

一人だけ歳が3つ上だった。

一人だけ既婚者だった。

一人だけ、夜の動きに慣れていなかった。

昼と夜は客層が違う。

オーダーが流れるペースも違うし、そもそもオーダーの内容が違う。

同じお店で、同じメニューで営業しているのに。

店内の雰囲気はまるで違うのだ。

夜は飲み客がメイン。常連客も多かった。

女が私くらいしかいないので、名指しで呼びつけられることも多かった。

私はなるべく多くのメニューを勧め、少しでも単価を上げようと心がけた。

大声を張り上げオーダーを流し、バイト仲間が手際よく調理に取り掛かる。

少しだけ酔っぱらいの話し相手をしたら、

ドリンクを運んできたスタッフにあとを任せてデシャップに戻る。

阿吽の呼吸でテンポよく料理が出てくるはずが…。

欲しい料理が出てこない。

【ちょっと!!大野さん前の卓飛ばしてる!!】

大野が持つフライパンの中身を見て、私は怒鳴った。

イライラして客に出す伝票を握りつぶしそうになる。

目の回るような忙しさの中、人件費は最低限だ。

いつも同じようなメンバーで手際良く回しているため、シフトに余裕はない。

それでもいつものバイト仲間が同じミスをしたって、笑い話で済んだはずだ。

なのに…。不快感が消えていないのだ、この男に対する。

大野はハッとして、一瞬悔しそうな顔をした。

しかし瞬時に【ごめん!】と言って別のフライパンに油を敷き直し、料理を作り直し始めた。

 

宅飲み

とある金曜日。

【今日は終わったら飲みに行こうぜ】と誰かが言い出した。

ノリの良い連中の集まりだったため、話はスグにまとまった。

私も抜けられない雰囲気になり、結局深夜から付き合う羽目になる。

たまたまバイク族ばかりでその日は特に気が合ったのかもしれない。

私だけ足がないので、1番大きなバイクに乗ってる子にメットを借り乗せてもらった。

飲み場所に悩んでいた時に、大野が言ったのだ。

【じゃー今日は俺んちで飲まない?】

【えっ!?大野さんち奥さんは??】

【そーだよ。こんな時間に押しかけて騒いだら奥さん嫌がるっしょ!?】

みんなは口々に疑問を投げかけたけど、大野は不謹慎に笑っていた。

【いや、大丈夫。奥さん今実家帰ってていないから。俺一人!】

それを聞いたら遠慮する理由も無くなり、興味本位もあって結局みんなで彼の家へ押しかけることにした。

 

目いっぱい働いて、面白おかしくお酒も飲んで、みんな疲れて、いつの間にか眠ってしまった。

どうせ足はバイクだし、多少は睡眠とらなきゃ帰れない。

起きた頃には当然外は明るくて。

みんなぼんやりしながら帰り支度を始めた。

【帰っちゃうの?】

大野が小さく呟いた。

聞こえたのは私だけみたいだ。

【帰るよ。親も心配するし】

【夕方また来なよ】

【え…?】

【なんか予定あるの?】

【いや、ないけど…】

【じゃ、来れば?】

帰宅組のみんなに置いていかれそうになり、私は返事をせずに玄関を出た。

バイクの後ろにまたがって、気持ちのいい風を受けながらぼんやり考えた。

さっきのやりとりはなんだったんだろう。

私、寝ぼけてた?

いや、寝ぼけてたのは大野の方か。

彼に対する不快感はだいぶ薄くなっていたけど、全てが消えたわけじゃなかった。

けれどなんとなく寂しそうにしていた姿が気に掛かる。

どうしたんだろう。

奥さんとケンカでもしたんだろうか。

掴まれた腕の感覚が、ソコだけ強く残っていた。

 

帰宅してからも案の定、彼のことが気になった。

脳裏にこびり付いて離れない。

そんな感覚だった。

寝不足でウトウトしながら、ベッドでゴロゴロしているとケータイが鳴る。

大野だ。

少し悩んで電話に出た。

【もしもし…?】

【あ、出た】

【はぁ??】

【来るって事だよね?】

大野は楽しそうで、少し嬉しそうだった。

【・・・・。】

【駅に着く時間、わかったら連絡して】

【…わかった】

【じゃーあとでね】

【うん…】

切れた電話をぼんやり眺めた。

私はどうするべきなの?

よくわからない…。

よくわからないけど、とりあえずシャワーを浴びて、とりあえず着替えて、とりあえず化粧した。

無視しても良かったはずなのに、結局私は家を出て、大野の家へ向かった。

 

再び

大野は何食わぬ顔で駅まで迎えに来た。

そして笑顔で、私を再び自宅へと招き入れた。

別におかしいことはない。

お菓子を食べて、ジュースを飲んで。

テレビを見ながら、お喋りをした。

不快感を持っていた割には意外と普通に楽しく過ごし、

しかし前夜の徹夜が祟って、なんだか段々と眠くなってきた。

いつの間にか座っているのもしんどくなって、

寛ぎ始めてゴロッと横になったりしていた。

テレビを見て笑ったりしていたけど、なんだか目を開けているものしんどくなってくる。

眠い…。

ぼんやりと霞む視界の端で、大野の腕が見えた。

彼の右腕が、ゆっくりと私の方へ、伸びてくるのが見えてしまった…。

 

 

 

 

 

続く。

 

 

 

 

 

いや、続かないけど。笑

 

そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。

オヤスミナサイ☆|)彡サッ

 

 

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