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金属アレルギーのOLが樹脂でピアスを作る日々。

金属アレルギーもちのしがないOL。ピアスが好き。休日はちまちま樹脂ピアスを組み立てたり、読書したりアニメ見たり。とにかくインドアな趣味しかないOLの雑記。

【博士の愛した数式】 著者:小川洋子 レビュー


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今年のGWに実家の本棚を少しだけ整理した時。

発掘された積ん読本の中にこの1冊を見つけた。

 

小川 洋子 新潮社 2005-11-26
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【博士の愛した数式】著者:小川洋子

実家の部屋に置いてある本なんて、一体何年前に買った本だろう?

ワタシが実家に住んでいたのは相当昔のことなんだけど。

この本を買った記憶さえもうないくらい。

確か映画化された小説だったよね?

映画は見ていないし、あらすじさえ知らないこの本。

でもきっと、古本屋をウロウロしている時に映画化された話題の本を安く見つけて、そのうち読もうと買っておいたに違いない。

10年近く実家の本棚に埋もれていたこの本。

今思えば、突然発掘したのはあの日の為の運命だったのかもしれない。

綺麗な言葉が並べられている本だった。

いや、綺麗に言葉が並べられているのかな。

この本は、あの辛い日の前後に読んでいた。

心がやさぐれていたワタシに、静かな癒やしを与えてくれた。

普段なら好んで読まない部類の話なのだが、あの時は何故かしっくりと心に浸透したのだ。

辛い現実にそっと布をかぶせて、ワタシは静かに読み続けた。

 

あらすじ

瀬戸内海に面した小さな町。その町の、あけぼの家政婦紹介組合に登録している家政婦さんが出会った【博士】とのお話。

面接の為新しい派遣先の家を訪れると、対応に出てきたのは、上品な身なりの老婦人であった。

『世話をしてほしいのは、義弟です』

彼女は言った。

『特別にややこしいお仕事をおねがいしているわけではありません。月曜から金曜まで、午前十一時に来て、義弟にお昼を食べさせ、部屋の中を清潔に整え、買物をし、晩ご飯を作って夜の七時に帰る。たった、それだけです』

それから、家政婦と、老婦人の義弟と、家政婦の息子との日々が始まった。

私と息子は、彼のことを【博士】と呼んだ。そして博士は息子を、【ルート】と呼んだ。息子の頭のてっぺんが、ルート記号のように平らだったからだ。

【ぼくの記憶は80分しかもたない】博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた。記憶力を失った博士にとって、私は常に『新しい』家政婦。毎日が『初対面』。きっちり、一時間と二十分。

博士の袖口にメモが増えた。【新しい家政婦さん と、その息子10歳 √】

買物に出かけても、急いで帰らなければならない。きっちり一時間と二十分で、博士は全てを忘れてしまうから。また『初めまして』になってしまう。一緒に食事をしても、数字について語り合っても、ルートの宿題をみてくれても、皆で野球観戦に行っても。全ての記憶は蓄積されること無く。明日になれば『初対面』からやり直し。

それはあまりに切ない日常生活。

 

記憶の蓄積。

不謹慎かもしれないけれど、なんだか動物との暮らしに似ていると思ってしまった。

偶然にも、8年間共に暮らしていた家族が亡くなってしまった前後に読んでいたわけで。その記憶の短さは、寿命の短さに似ていると思った。長く覚えている方は、寿命が長く生き残っている方は、ただ一方的に想い出を慈しむ事しかできない。決して共有することは出来ないのだ。それはとても儚く、ただひたすらに愛おしいものなのかも知れない。

 

描写の美しさ。

この小説は数学について詳しくなくても勿論読める。ワタシもその一人だし、むしろわからない方が家政婦の心情を理解しやすいと思う。

懐かしい数式や、ストーリーの繊細さもあるけれど、何よりも言葉が美しいのがこの本の良いところではないかと思う。小川洋子さんの作品は皆こんなに綺麗なのだろうか。

間違いなく日本のとある小さな町でのお話なのに、なんだか遠い海の向こうの外国の物語を読んでいるような錯覚を覚える。子供の頃に読んだおとぎ話のような世界観だ。

カーテンがなびくたび雨が吹き込み、二人の素足にかかった。彼が言うとおり、ひんやりとして気持ちよかった。もうどこにも太陽の気配さえなく、消し忘れた流し台の明かりだけがぼんやり中庭を照らしていた。木々の間に隠れていたらしい小鳥たちは飛び去り、絡み合った枝はうな垂れ、やがて目に映るすべてのものが雨に覆われていった。土の溶けてゆく匂いがした。雷鳴は少しずつ近付いてきた。

辛いことがあった時、疲れている時や泣きたい時。そんな時に心を癒やす一冊となるだろう。そんな本が、本棚に一冊くらいあってもいいかも知れない。 

 

(極めて個人的)評価

★★★★★

厳密には4.5くらい。

日頃こういうジャンルは読まないのでタイミングが非常によく合ったと言える。

現実が辛かった時に、通勤電車の中で粛々と読み続けた。

繰り返すが普段はこの手の本は読まない。純文学的なものはどちらかと言えば苦手ジャンルなのだ。でももしまた心がささくれ立った時には、また小川洋子さんの本を探してみるかもしれない。

彼女の作る物語は心の栄養剤になると思う。

 

小川 洋子 新潮社 2005-11-26
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